2015年(平成27年)1月・冬39号

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自家製の干し柿とキンカンの甘露煮を添えて正月用に飾り付けた笹沼礼子さんの「落花生餅」

「ほんとに古いですからね。あっれーと思うような竈場(かまば)ですから」と、礼子さんが前置きして案内してくれたのは、タイル貼りの立派な二口竈だった。「本当に笑っちゃうような竈でしょ。うちでは、もう大々的に使っているんですよ。蕗なんかを佃煮にする時に、あの竈で火を燃して作りますね」。

礼子さんの落花生餅は、正月用食料として昨年暮れに作ってあったため、火は入ってなかったけれど、もち米と落花生を蒸したという竈を見せてもらった。

「うちの落花生は、豆餅に入れるために作った落花生なんです。落花生は煎らないで、生のままもち米と一緒にセイロに入れます。実家は、落花生をもち米の下にしますけど、うちは、もち米の上に散らばして蒸かしますね」

こんな説明をしながら礼子さんは、火の点いたガス台にピカピカの四角い特別な鍋を乗せ、厚さ5ミリほどの2種類の落花生餅を並べていく。青のりとシソの落花生餅だ。

「この鍋は特殊加工してあるみたいで、2万円以上したんです。鍋の一種ですね。農協で言うんだから、間違いないと思ってるんです。やっぱ山の中は、農協に対して信頼がありますね。JAの料理講習を見て、あっ、この鍋良いなって購入したんですよ、口座引き落としで。ガス燃料くわないよって言われて。ある程度焼けたら、裏返して、ガスを消しても、余熱で焼けるよって。ここらでは豆餅用の青のりがあるんです、それもJAです。このガスコンロもJAですね。ずいぶん前ですけど、母が、年齢的に杵つき餅はできないっていうことで、餅つき器で搗くようになったんですね。その時もJAから餅つき器の“もちろん”を買ってね。30年ぐらい前の古い機械をずっと使ってますね」

「昔、実家でタバコ農家の総代をやってた時に、指導員みたいな人が来ると、お昼っていうと総代さんの家で食べるのが習わしだったんですね。何人かのお昼を用意しなくちゃなんない。車持ってるわけでもないし、スーパーもないわけですよ。この小砂に商店が一軒あったんですね。そこへ、2、3キロ先なんですけども、自転車で母親が、魚とか買いに行くわけですね。そういう風にして、みんな自分の手料理で振る舞わなくっちゃならない。そんな苦労を今、85歳になった母が言うんですね。子どもの頃、お正月は楽しみだったですよね。でも母親は、なんかこう嬉しいような感じじゃないんですよね。長男だった父親には、7人も8人も兄弟が居るんですね。お正月ってなると、一斉に帰って来るんですよ。食べ物が第一ですよね。他にも、母が布団を用意したりとか、きっと大変だったんでしょう。私もこの歳になって、だんだん思うようになりましたね。母親は大変だったんだろうなって」

①もち米と落花生を蒸す竈

②搗き上げた餅を入れる青竹の型

③硬くなる前に薄く切って冷凍

④JAから買った特製の鍋で焼く

⑤焼けた餅に醤油を付ける

⑥醤油を付けた餅にノリを巻く

鍋の中では、豆餅がもう膨れあがってきている。

「大きさが同じなんで、いっぺんに来るんです。もうガス消しちゃって大丈夫だと思います。ほんと、おやつ的で、小腹すいたら、すぐ食べられるんです」

礼子さんが、豆餅に醤油を付けて、次々とのりを巻いていく。

「お正月だと、南天を添えて、難が天に行くように、難を逃れるようにって。これは、うちで作った干し柿。干し柿は、掻き集めるって言うんですね。キンカンは無病息災、風邪を引かんようにということでね」

正月らしい落花生餅のお茶請け一式ができあがった。硬くならないうちにと、シソの落花生餅をいただく。シソの香りがほんのりと漂う。わずかな塩味と落花生の甘味が絶妙のバランスだ。一枚の落花生餅を2、3口で食べ終わると、シソの香りが口の中に残っている。続いて、青のりの落花生餅をいただく。青のりの香り、餅の塩味、落花生の甘味、どれもが言葉で伝えるのは難しい微妙さなのだ。落花生餅は、日本の食文化の奥深さを感じさせた。

「だいたい正月の15日までには食べ終わりますね。蒸かしたもち米と落花生を餅つき器に入れますよね。その時に塩をパラパラって振って、そして搗きますね。勘で、手の具合で塩味なんです。干し柿も食べてみてください。沸騰したお湯に塩を入れて、その中に柿を潜らせて吊すんです。そうすると虫が付きにくいんですね。この辺は貧しい農家ですから、タバコ栽培が盛んだったです。我々の親の代は、タバコと米で、一年間の子どもの教育費を賄ったりとかやっていたんですから。私は、バスで高校へ通ったんですね。定期券を買うんだからお金を頂戴って言うのが、なんか気の毒で。で、もうギリギリ朝になってから言うんですね。『今日、定期券買うようなのよ』『なんで、朝言うの。お金無いでしょ』って言われて。山間地の一年の暮らしって、何も無い所なんで、柿の木があれば干し柿作って、お正月に食べるとかね」

 

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