2016年(平成28年)5月・初夏47号
発行所:株式会社 山田養蜂場 http://www.3838.com/ 編集:ⓒリトルヘブン編集室
〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町10-22-203
|ここの上のな伯州山(1044.9m)に上がる人が、昨日までごっつい人だったんだけ。大きなバスで来なさるん。昔ゃ行きよりゃせなんだ。それでもここ10年からになるじゃろ。花が咲くけ、きれいな言うて、今日もな一台な、来なさったけど。昔しゃ無かったんじゃけ。ありゃ何やらいう花じゃったんじゃが。
(注・伯州山の中腹に、雪解けから5月初めまでイワウチワの花が咲く)
|大昔、娘ん時じゃ。まだ嫁に行っとらん時、大勢なこと青年が居りましたからな、わしより上のお姉さんがな。上齋原にお宮があるでしょ。あそこが昔は学校でしたんじゃけ。あそこの運動場でな、駆けったり何かするのを競争にしよったんじゃ、部落で。男子は俵にな砂を入れて一俵ぐらいかたいだり(担いだり)してな、勝負付けたりしよったんよ。女子はバケツに砂入れて持って駆けったりな、綱引きは男子と一緒にな、そがんこともしよった。フフッ。そがんこたぁ書きなさんな。それは、青年が請けてしよったんじゃけ。青年運動会みたいなもんじゃ。うちら6区です。6区はいっつも一番になりよった。ハッハッハ……。6区で、女でも1人2人3人……8人、男子と両方じゃ15、6人おったでな。走るのが速いいうても、リレー管(かん)繫いだりな、リレー管渡すんじゃけ。先頭の人が一番で行ったら、たいていうちらの組はええ塩梅にいきよったでな。みんなが走るのが速かった。6区というのは、赤和瀬と中津河が一緒なんじゃけ。
|帰ってきたらそれぞれの区でな、どこの区も憩いの家にな寄ってな、飲んだり食べたりして、面白う遊びよったでな。昔は、芝居でもようしよったし。フフッ。面白かった昔ゃ。ま、そがんこたぁ書きなさんな。
|私の実家は、あそこに見えよるでしょうが、木の下に2階家が見えよろ、私ゃあっこから来とるんじゃけ。あれが出家(でいえ)じゃけ。地から地。近いけど実家に帰りたいとは思やせなんだ。私がここへ嫁に来た頃は、機械が無かったけな。もう鎌持って稲を刈って、ほいで、牛でな田んぼを曳いたり、代掻くもんでな。今の人は機械で全部しなさるけなあ。田植えいうても、皆、手で植えてなあ。皆、ここらの人で組んで。
|毛がある米を作ったりしてな、色々しておったけど、又、そん時ゃそん時で、みんなで食べよったんじゃけな。今は、買ってな肥料入れて軽うにするけど、その替わり金がようけ要るけんな。昔ゃ要らなんだけな、金が。
|大正14年生まれ、22歳の時に嫁に来た。まだ私が下(しも)に居る時はなあ、戦争しよった。穴掘ってなあ。ランプで仕事しよったんじゃけん。もう昔人間じゃけん。結婚式は家でしたんで。いや、ここじゃない、この下(しも)の家じゃなあ、実家から歩いて歩いて……。花嫁の格好まで書かんでええがな。そなんこと書きなさんな。
|雪もな、この屋根が草屋根でしたけなあ、それで(雪が)ずらんでしょう。屋根に上がって、スコップ持って落としてな、今のようにきれいに取らなんだ。草屋根じゃけん。子ども送って外へ出てもな、お父さんが作った「わ」(かんじき)履いて、そいで長靴履いたり藁靴な、あれを履いたりしてな。冬は、牛を飼(こ)うて、筵(むしろ)を打ったり、叺(かます)打ったりな、草履(ぞうり)を作ったり縄(なわ)のうたり、あなんことばあい(ばかり)しよった。今はせんし、要らんし、そんなんは。
|子どもが出来たんは、結婚して3年ぶりだったかな。私は、子どもを守りして百姓しよった。姑さん居らんかったけ、私らだけやったから私が守りしよった。結婚してな、ここへな出たんじゃけ。ま、いけん、そなん小(こ)も書いちゃ。書きなさんな。もう言わん、みんなが笑うけん。
|籠を編んだりな。色々なことしよったでな、わしも好きだったけ。ガマを材料にな、ガマはあったんようけ。赤和瀬川にようけあったん。耕地整理なったけ、今はないけどな。昔はいっぱいあった、いいガマが。やっぱり水がちいっとあるような所に生えとります。長い大きなガマがな。それを刈ってきてな、洗うて、竿へ掛けて陰干しして、そいで、それを使いよったんよ。昔は、みんな編みよったんじゃけ。冬しよった。夏は百姓して色々なことせないけんけんな。冬は、男の人は鉄砲持ってウサギを獲り行ったりな、ようけ獲ってきよった、昔ゃ。お父さんの名は、文一。そがんこと書きんしゃいな。獲ってきたウサギは料理する。誰でもするわい。獲ってきた人は皆がするんじゃ。毛皮は釘打って広げて干して敷物にしたりな。もう言わん、書きんさるから、もう言わん。
|今の楽しみは、こけんようにな、家に居りゃとぼけるけ、歩いたり畑の方したりな。ここん上(伯州山)に大勢上がりなさるけな、おばあちゃんって寄ってつかあさるけん、お話をしたり、車を見たり。誰かが上がりよんなさるけん。奥の方に居るけど、割り方人が通りなさるけな。良いとこでした言うてな、帰って来なさるで。年を取ったけ、どっこもよう行かんし。ま、家の中にも空気入れないけんし……。機械で草刈ったり、去年まではずっとしてきたんじゃ。
|この冬は(赤和瀬の集落を)出とったんじゃけ。それまでは、雪が降ったのを機械で掻いて取りよったんじゃけ。屋根の雪が高うなって、よう取らん時は森林組合を頼んだり、ここの下(しも)の民生委員をなさる人がな、よう世話して掻いてつかあさって、みんなが放っとくいうこたあないです。誰かがしてつかあさる。いい部落ですえ。ちょこちょこ電話してなつかあさるしな。役をしとる人がな、気を付けてようしてつかあさる。いい部落じゃけ。
|ここは10何軒あったんじゃけどな。みんなが子どもが大きゅうなったら、ここにはよう居らんゆうて、2、3軒ずつ家を建ててな倉敷の方やらへ出なさったけな。今何軒ぐらいかな。うちから私、ミチさん、いながきのカオルさんに、カズちゃん、タマちゃんにサトルさんにダイさんとこに、ヨシコにツトムさんに区長さんに……。10何軒あったけど、今、下(しも)の家はめったに帰りんさらんし、そこも空き家じゃしな。みんな子どもが居らんようになったけ。下(しも)へ出るようになったけな。中津河と一緒じゃけど、いい部落じゃけな。
|わしゃ写真撮ったりするのは嫌いじゃ。皺だらけでな。焼けたんじゃが、外へ出るけ。その写真機は、じきには写真は見えんの……。口開けてるけどいいのか。私ゃ写真写りが……。おかしいけど、どうしようもないわな。ようけようけ書きよって、変なとこがあったら、消やしときんしゃいよ。ハハハハッ。話聞かせてくれいうて、さいさいここに来なさる人が居るけど、わし、話さんけ。今日が一番ようけ話した、おじさんに、ほんに。
|今、写したろ。変なんじゃけ、見んでええけど、見たあ(い)がな。まだ、大昔のことが色々あるけどな、ようけ話されん。変なとこあったら、飛ばしんさいよ。ハハハハッ。
近所の友だちから貰った花の苗を家の前の小さな畑の隅に植えた
畑に花の苗を植える。ここで畑仕事をしていると、横を通る伯州山に上る人びとと話が弾む
2 - 2
美津子さんが座敷で私を迎えてくれた
「わしゃ写真撮ったりするの嫌いじゃ」と、美津子さん
2 - 2
「家に居りゃとぼけるけ、歩いたり畑の方したりな」
「大昔のことが色々あるけどな、ようけ話されん。まあ、また来んしゃい」と、美津子さんが見送ってくれた
これまでに発行された季刊新聞「リトルへブン」のWeb版を読むことができます。
Supported by 山田養蜂場
http://www.3838.co.jp/littleheaven/index.htm
Photography& Copyright:Akutagawa Jin Design:Hagiwara Hironori Proofreading:Hashiguchi Junichi
WebDesign:Pawanavi