2016年(平成28年)3月・春46号

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百々光子さんが作った「彼岸の3色ぼた餅」

|「今日は彼岸の入りや。猪名川の実家までな、行って、仏さん参って、お墓へ行くのやな。それ終わったら、姪とかと一緒にこっち戻って来て、能勢温泉で食事して、お風呂入って帰るんや。仕事ばっかり違うよ。あっち行ったりこっち行ったり、しとるんですよ。せやなかったら、生きておられへん」

勢いのある関西弁の語り口で、百々光子さんが私を迎えてくれた。まな板の上に、鶏肉、ニンジン、油揚げが並んでいる。今日は、彼岸の「ぼた餅」を作ることになっていた筈だが、と私は戸惑う。しかし、百々さんの手は迷わず包丁を握っている。「これから材料を切ります。五目ご飯いうてね、かやくご飯」。

もう百々さんの勢いを止めることはできそうもない。

みるみるうちに五目ご飯の具は切り揃い、炊飯器に仕掛けてあった米の上に並べられた。上にコンブを3切れ置いて、醤油を垂らし、炊飯器のスイッチを入れた。次に、IH調理器に水を入れた鍋を掛ける。昨夕、裏の畑で摘んだ菜花の辛子味噌和えを作るというのだ。ボールに、味噌、砂糖、練り辛子を入れて混ぜ終わると、沸騰した湯の中に菜花を潜らせる程度に浸け、すぐに水道水で冷やした。

|「田舎のお土産として、大阪にちょっとあげよかなと思うたら、いつも餡子を作り置きしとくんです。今、紫芋の餡子がないもんやからね、粒餡を入れますけどね。そうか思うたら栗。栗もね、餡子にして置いとくんです」

百々さんの手はいきなり、ぼた餅作りに入った。もち米7対うるち米3の割合で、ぼた餅用のご飯がすでに炊きあがっている。冷凍庫から出しておいた漉し餡をパックから一掴み取り出して、掌に丸く伸ばす。湯気の立つぼた餅用ご飯を漉し餡の中央に置き、飯を包み込むように餡を伸ばしていく。とにかく百々さんは、手際が良い。

|「ストーブ切りますわ。暖かくなると、餡子がベターッと垂れてくる。お彼岸だけでなく、年に何回となく作りますよ。小豆は、大納言いうてね、北海道の大きい粒の、それを家で作るんですよ。お赤飯する時かて、大納言で作るの。これは漉し餡やけど、中に入れる餡は粒餡。昔、知らない時にね、(嫁に)来て間もなしにね。お母さん(姑)がな、小豆を炊いとかはってね、漉し餡作っときなさい言わはったん。漉しても漉しても水ばっかりや、ね。残らないもの。ほんで、知らんと捨ててしもたん。ぜーんぶ(全部)水みたいになってまう。できなかったんよ。皆、沈んでしもて。知らんから。私は、来て間もなしやん。20歳やそこらで来とってね。そんなん分かれへんもん。それから、もう絶対、聞かなくても覚えるようにしてね。あんたも漉し餡の作り方知らんの。小豆を漉したら、下に溜まりますやん。それを、水シューッとして、ほんで残ったやつを、空鍋に入れて炊くんやん。お砂糖とお塩入れて、お砂糖いっぱい入れんのよ。甘みを増すためにお塩少々入れてね」

話をしながら、百々さんの手は動き続け、台所の大きなテーブルの上に並べたフードパック8枚に、漉し餡で包まれたぼた餅が2個ずつ収まっていく。残り2個分の餡が足らなくなりそうだ。「予備がありますのや」と、冷凍庫から冷蔵庫へ移してあった作り置きの漉し餡を百々さんが取り出した。

|「やっぱり、今出したとこやから、きれいに丸めますやろ。前のは冷蔵庫から出して置いてたから、温さでベチャーッと緩くなってしもた。温いのはあかん。微妙やもん、餡子かて。よし、これでできた」

百々さんは、次に、もち米のご飯を掌に伸ばし、粒餡を包み、表面にきな粉をまぶしていく。

|「あのね、おはぎとぼた餅とは、違うんです。ぼた餅いうのはね、牡丹の花の咲く頃に作るからぼた餅いうん。萩いうたら秋ですやろ、それはおはぎいうん。萩が咲く時分。寒いから、ここら辺は、牡丹は出てないけど、これはぼた餅なの。同じもんですよ品物は。呼び名が違うちゅうだけの話やね。という説ですねんて。ハハハッ、そうらしいですわ」

百々さんの手は、すでに青のりをまぶしたぼた餅を作り始めている。フードパックに、漉し餡ときな粉、それに青のりのぼた餅が2個ずつ並び、彩りが良い。

|「きれいですやろ。あんまり青のりようけ効き過ぎたら、かなわんいう人もあるんや。歯に引っ付くしな。明日食べても硬くはならないです。柔らかくご飯炊いてるから。あんまり硬くしてもあかんしね。柔らか過ぎても握られないしね。難しいですやん、水の頃合いが」

ぼた餅作りが終わり、フードパックの蓋を輪ゴムで留めていると、炊飯器から五目ご飯が炊きあがったことを知らせるメロディーが流れた。

|「でけた、でけた。上手いことでけたやん。計算したみたいやろ。長年の熟練やもんな。ま、できましたので座ってください。仏壇に供えないかんな」

 

昨夕、裏の畑で一緒だった田尻川の谷を挟んだ向い側の川勝節子(かわかつ せつこ)さん(70)が、百々さんから電話で呼ばれてバイクでやって来た。何かと言えば2人一緒の仲良しらしい。

百々さんが3色のぼた餅を仏壇に供えた後、さっそくできたてをご馳走になった。百々さんが言うように少し柔らかめのぼた餅。甘さ控えめの餡が上品さを醸し出している。きな粉と青のりの香りが変化となって、3色のぼた餅を一気に平らげる。百々さんが心配そうに聞く。

|「塩加減どうですか。ご飯に塩入ってますのやで。それが又、加減があってな。ほどらいこ、や」「えっ、ほどらいこって、何ですか」と、私。「ま、言うたら、適当に、いうことや」。

川勝さんが頷いて、話に入ってきた。

|「もう長年やってたら、ほどらいに、言うて、自分で計って何グラムいう、そういうんは、もう、今はせえしませんわ。家でやってる分にはね。さあ、また、頑張ってゴソゴソしよ。ゴソゴソや。ハッハッハッハ」

川勝さんは、豪快に笑ってバイクで帰って行った。

百々さんが実家の墓参りへ行く時間が迫っていた。暇を告げると、炊きあがったばかりの五目ご飯と菜花の辛子味噌和えが詰まったパックを、お土産に持たせてくれた。

① 五目ご飯

② 辛子味噌を造る

③ 菜花を茹でる

④ 餡子を掌に広げる

⑤ もち米を餡子で包む

⑥ きな粉をまぶす

⑦ 青のりをまぶす

⑧ パックに詰めた三色ぼた餅

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