2016年(平成28年) 1月・冬45号

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白菜の漬け物の白和えと(右)と具沢山の味噌汁を合わせて、24日正月の精進料理「粕菜っ葉煮」となる

柳沢地区には「秋葉様」と呼ぶ「お稲荷さんに乗っている不動明王」に参拝する「24日正月」という宗教行事が伝わっている。この時に参拝者がいただくのが精進料理の「粕菜っ葉煮」なのだ。

|「柳沢には、順番で5人ずつ料理を作る当番の「当前(とめ)」ってあっから、女の人たちゃ作り方させろって、神様さ行がねえのよ。皆が神様さ拝んで帰って来るまでに料理を準備しておかなきゃなんねえの。旦那様が神様拝みには行ってるから、女の人は「当前」当たれば、料理作りさには行くけど、神様には行がね」

裕子さんは、「24日正月」の「当前」には当たったことがないというので、「道路挟んで隣だから、呼んで来っから」と、壽子さんを呼んで来てくれた。

壽子さんは詳しい事情も分からないまま促され、ジャガイモ4個の皮を剥いて鍋で煮始めた。白菜を4分の1、豆腐1丁を裕子さんが準備する。「菜っ葉の頭を切ります」と、壽子さんが料理教室の先生のように声に出して言い、笑っている。白菜をザクザクと2センチ幅ほどに切っていく。

|「油揚あるっ?」。壽子さんが裕子さんに聞く。「ある、ある」。冷凍庫から「凍ってっから」と大きめの油揚を1枚出してきた。壽子さんは、凍ったまま油揚を1センチ幅ほどに切っていく。

|「お精進だから油揚もだったな、んだんだ。だからトロットロッって美味しいんだな。油揚が出汁になってて、魚っこも何も入れない。ようはお精進だから」

裕子さんがジャガイモを煮ていた鍋に油揚を入れながら、納得したように私に話し掛ける。

|「あと、和え物の方だね」。すり鉢に豆腐半丁を入れ、スリコギで潰し始めた。でも、すり鉢は普段使っていないようで、裕子さんが握っているスリコギは上手く円を描かない。チラッと壽子さんを見て「いい?」。「うん、いいよ」と、壽子さんにスリコギを渡すと、すり鉢の音はゴリゴリとリズムが出てきた。豆腐はだまの無いようにしっかり潰し、砂糖を大さじ一杯加える。

|「白菜(の漬け物)は一株でいいか?」と、裕子さんが壽子さんに聞く。「絞ったんだけども、足んない?」。裕子さんは、ちょっと心配そうだ。

白菜の漬け物を受け取った壽子さん。上から汁を絞り出すように握りしめ、「1センチ5ミリぐらいね」とざく切りにしていく。

横では裕子さんが、先ほど壽子さんが切った生の白菜を、ジャガイモと油揚を煮ている鍋に入れる。2つの料理が同時進行だ。

|「入れます」と、すり潰した豆腐の中へ白菜の漬け物を加え、おへら(シャモジ)で混ぜていく。「ちょっと南蛮粉入れるわな」と、一味唐辛子を振りかける。「もう少し、豆腐が入っと良かったね。中身(白菜の漬け物)が多かったな。半分にすれば良かったな、やっぱな」。どうやら豆腐の量に対して、白菜の漬け物が多かったようだ。裕子さんがすぐに追加の豆腐をすり潰し、和え物に加える。

|「もともと漬け物に染み込んでいる菜っ葉の塩味で味付けだから」

味見をした壽子さん、「もうちょっと南蛮粉いい?」と、裕子さんに一味唐辛子を加えるように促す。

火に掛けた鍋がグツグツと煮えている。短冊に切った豆腐を加えると、煮立っていた鍋が温和しくなったが、すぐにグツグツとまた煮立ってきた。

|「味噌入れていい?」。裕子さんが壽子さんに目線を送る。味噌を鍋に入れながら、具が鍋から溢れるような状態を見て、裕子さんが「汁というよりは、だから菜っ葉煮なんだね」と、妙に納得している。

|「豆腐と油揚が入っただけで、味が良いんだよね、うん。豆腐と油揚使うってことは、昔は高級だったんだよ。ほんとは、大きい鍋で作っと、また違うんだよね、味が。そん時ってね、油揚もね、ギロギロなるくらいいっぱい入れんのよ」

和え物の味を見ていた壽子さんが、納得できない表情だ。

|「やっぱ甘いんだな。菜っ葉の塩、足んねかったかな」

|「昔からみたら、塩味は白菜、甘くしてあっからね。昔は塩っぽい漬け物だったから。いま、白菜漬け甘いもんね。昔は3月まで食べてたから、白菜が底の方でベタッとなるまで漬けてあったけどね」

壽子さん自宅の座敷には代々家長の遺影が飾られていた。町会議員を長く務めた夫は、壽子さんの自慢だ

|「24日正月」の精進料理「粕菜っ葉煮」が出来上がった。味噌味の汁と白和えの2品合わせて、「粕菜っ葉煮」と言うようだ。出汁は何も使わなかった。材料のジャガイモ、油揚げ、豆腐、白菜から滲み出る素材の味が基本なのだ。

熱々の味噌汁と白和えをいただく。素朴。淡泊。そんな言葉が浮かぶ。

① ジャガイモの鍋に油揚を加える(汁)

② 豆腐を丁寧にすり鉢で擂り潰す(和え物)

③ ざく切りの白菜を鍋に加える(汁)

④ 白菜の漬け物を1.5センチに切る(和え物)

⑤ 豆腐と白菜の漬け物を混ぜ合わせる(和え物)

⑥ 最後に豆腐と味噌を加え味を調える(汁)

|「さっぱりと言うか、漬け物と豆腐だけとは思わないよね。最初食べっと、これは何だべって思うけど、豆腐と漬け物だって分かんなかったもんね」と裕子さん。単純なようで奥の深い白和えの味を表現してくれた。

|「41軒あれば41人集まって来っから。それにお代わりもあっから。みんなで食べる

のって美味しいみたいでさ、いま現在でも、こんな風に作っても、みんなお代わりするよね」

|「ん、だよ」。急に引っ張り出されて料理を作ってくれた壽子さんが、ほっとした表情で相槌を打つ。

|「粕菜っ葉煮」と地元で呼ぶ料理なのに、「粕」は登場しない。調べてみると、古くは白和えに、豆腐ではなく酒粕を使っていたことが判った。その名残が呼び名として残っていたのだ。毎年の恒例行事を、そのままの形で残すには強い意志が欠かせない。時代と共に酒粕が豆腐に替わってきてはいるが、「粕菜っ葉煮」の味には、柳沢地区の伝統行事を、できだけ元の形で残そうとする強い意志が現れているように思えた。

 

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