2015年(平成27年) 9月・初秋43号

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上地ヨシ子さんの「ナーベラーンブシー」

台所の調理台に、朝収穫したばかりの長さ30センチほどのナーベラー(へちま)が4、5本無造作に置いてある。

|「若いナーベラーは、やっぱり柔らかくて美味しいけど、大きくなったのは皮を厚く剥いたら同じ味になるさね」

ヨシ子さんはナーベラーを手に取ると、両端を切り落とし一気に皮を剥き始めた。年の功というのか、その包丁さばきの素早さに驚く。ナーベラー4本を厚さ1センチほどの半月切りにして、洗い桶の水に浸す。

|「若い時からよく食べてました。ナーベラーは厚めに切った方が良いみたいですね。とっても簡単、とっても美味しいし、何とでも合いますよ。ナーベラーが硬くなったら、筋が出てからね、やっぱりタワシになるんですよね。だから本土の方は、タワシを食べると思って、あんまり好きじゃないみたいですね。水に浸しておく時間はすぐで良いよ」

厚手の鍋を強火に掛けて温め、油を垂らすと一気にナーベラーを投げ入れる。一瞬ジャジャーと油の弾ける音がしたが、すぐに落ち着いた。ヨシ子さんは、木のヘラで鍋の底からナーベラーを掬い上げるように裏返しながら炒める。強火のまま7、8分すると、一滴の水も加えてないのに鍋の中はグツグツとナーベラーが煮えてきた。

|「水は入れてないけど、水分が出るんですよね。豚肉入れてもいいし、シーチキンなんかを入れてもいい。豆腐も合いますよ。自分の好きなのを入れればいいです。缶詰だと無難ですね。最後には味噌を入れてもいいし。小さい時に母が作っているのを見て、見まねしているんですよね」

そう言いながらヨシ子さんが持ち出してきたのは、見たことのないメイフェーアのビーフ&ベジタブルと書かれた缶詰だ。原産国を見ると、オーストラリアとなっている。

|「これストゥの缶詰。沖縄ではスープのことをストゥって言いますね。この缶詰の汁も全部入れて、混ぜ合わせると出来上がりなんです。缶詰には味が付いているから、味見をしてみましょうね。ちょっと薄いね。塩を入れた方が良いね」

ヨシ子さんは、塩を一つまみ鍋に入れた。

|「もう出来上がりですね」とヨシ子さんが言った時、ナーベラーの皮を剥き始めてからまだ18分だった。

ガス台前の棚に載せてある頑丈そうな、大きめの片手鍋が気になっていたので見せてもらうと、把手にU.S.N.とある。

|「この鍋はね、戦争が終わって石川市(現・うるま市)に避難している時に物々交換したのか分からないけど、手に入れた鍋で70年になるからね。あの頃は鍋もないからね。ずいぶん遠い所へ歩いて行ったと聞いていますよ。うちだけかと思っていたら、あっちこっちの家にあるんですよ、これが」

ヨシ子さんが懐かしそうに笑う。実用的なデザインで、質実剛健という言葉がぴったりの鍋だ。70年前のアメリカの物質文化の豊かさを垣間見た思いだ。

|「盛り付けてからネギなんか散らしても良いわけよね」と、湯気の立つナーベラーンブシーを大ぶりの鉢に盛り付けてもらった。シソジュースと一緒に戴く。

口に含むと柔らかくて、麩(ふ)を食べているようだ。ヨシ子さんが横から心配そうに「味はどうですかね」と、覗き込んでいる。「ナーベラーンブシーと言えば、ヘチマの味噌煮のことと思われますけど、特に味噌を使わなくても全部を含めてナーベラーンブシーと言いますね」

ビーフ&ベジタブルのストゥ缶詰の味もまろやかで、最後にヨシ子さんが加えた塩の一つまみが効いている。ナーベラー料理は、そこに加えられる食材と上手く絡み合って、もう一つの新しい料理となるようだ。考えてみると、中国大陸や朝鮮半島、それに日本本土から押し寄せてくる異文化を元々の琉球文化に取り込み、いつの時代にも独自の琉球文化を維持してきた沖縄の懐の深さと、したたかさを感じさせる料理なのだ。

食卓に置いてあった「コーレーグス(島とうがらし)も

試してみて」と勧められ、ほんの数滴ナーベラーンブシーに

垂らしてみると、一気に沖縄の個性が際立って、

別の食べ物に変身した。

 

※注: U.S.N. は米国海軍のイニシアル

ヨシ子さん宅の台所に
祀ってある火の神様

70年前に手に入れた米海軍の手鍋

① ナーベラーの両端を落とし皮を剥く

② 少しの間水に浸してザルに上げる

③ 強火で鍋の底から裏返すように炒める

④ しばらく炒めるとたっぶりの水分が出てくる

⑤ ビーフ&ベジタブルの缶詰をスープごと加える

⑥ 缶詰を入れた後、味見をして塩を一つまみ

 

 

 

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