2015年(平成27年)5月・初夏41号

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モミ殻を被せて土で覆って、雪に埋もれて越冬したジャガイモで作った柿木和恵さんの「イモ団子」

|「芽が出たジャガイモしかないんですが、構いませんか。去年、私が植えて、うちの中で越冬したジャガイモ。“きたあかり”という品種で、これね、中が黄色で男爵より甘いんですよ。でね、茹で上がるのが早いんです。ジャガイモの種類ってすごいあるんですけど、中の赤いのとか紫のとか、色々あるんですよ」

今日の材料は、昨夏に収穫して越冬し最後まで残っていたジャガイモだ。

|「これを食べちゃうと、8月ぐらいまでジャガイモがない生活をしないといけないんです。どうしても食べたい時は、スーパーで買って来るんですけどね。これしなびているから、皮むき器じゃ剥けないんです」

和恵さんは、手慣れた包丁さばきでジャガイモの皮を剥き始めた。芽の出ているところは深く包丁を入れていく。皮を剥き終わると5ミリほどの厚さで輪切りにして鍋に入れ、強火に掛けた。間もなくグツグツと煮立ち始めた。イモ団子は、和恵さんが子どもの頃にお祖母さんがよく作ってくれたのだという。「私イモ団子で育ったようなものなんです」。時々菜箸を突き刺して茹で具合を確かめながら、子ども時代の冬の寒さを思い出したようだ。

|「10分もしないうちに茹で上がります。結構早いんです。私が子どもの頃は、もう少し北の美深町だったんで、マイナス30℃より気温が低くなると小学校は休みだったんですよ。そいで、マイナス25℃より低くなると2時間遅れの学校始まりとかね。昔の学校は寒いじゃないですか、そんなのありましたよ。今、マイナス25℃になることあんまりないですね。雪も少なくなったし」

ジャガイモが茹で上がったのを確認したら、お湯を捨て、火に掛けたまま鍋を揺すってジャガイモの水分を飛ばす。

|「私は結構熱いうちに片栗粉を入れるんですけど、人肌まで冷めないと片栗粉を入れちゃだめという人もいるんですよ。温度が高いうちに片栗粉を入れると、お餅みたいになるんですよね。私はそれが好きで、それがイモ団子だと思っているんです」

①材料のジャガイモ“きたあかり”の皮を剥く

②ジャガイモの茹で具合を確かめる

③茹で上がったらポテトマッシャーで潰す

④ある程度潰したら重さ3分の1の片栗粉を入れる

⑤さらに米粉を加えて混ぜ合わせる

⑥少しぐらいイモの塊があっても良い

⑦良く混ぜ合わせたら太い棒状にまとめる

 

⑧厚さ1センチほどの輪切りにする

⑨フライパンで両面を焼き塩コショウする

ジャガイモの重さの3分の1の片栗粉を加え、ポテトマッシャーでジャガイモと混ぜ合わせるように潰していく。

|「ポテトマッシャーがない時、祖父ちゃんの作ってくれたスリコギ、これ年季入ってるでしょう。これだけは捨てられなかったわ」と、和恵さんが調理台の引き出しから太めのスリコギを持ち出して、ジャガイモを潰し始めた。

|「イモの固形を完璧に潰さないで、多少の固まりがあっても良いんですよ。固まりが全然なくなっちゃったら、マッシュポテトみたいになってしまいますよね。片栗粉だけだとキコキコってなるんで、硬くならない程度(片栗粉の3分の1以内)に米粉を入れます。東鷹栖は米どころですから、米粉を使ってほしいのですが、米粉が多いと柔らかくなり過ぎますね。私、味は最後まで付けないんです」

鍋の中の潰したジャガイモを、両手で捏ねながら太い棒状にまとめてまな板に載せる。和恵さんは、時々包丁を水に湿しながら、厚さ1センチほどの輪切りにしていく。ガス台に載せた厚手のフライパンの中で、ひと塊のバターが溶け始めている。

|「イモ団子は、砂糖醤油と塩コショウの2通りの食べ方がありますけど、砂糖醤油の時はね、普通のサラダ油で焼いた方が美味しいかも知れない」

そう言いながら、輪切りにしたジャガイモをフライパンに敷き詰めるように並べていく。

|「おおーっ、良い香り良い香り。もう茹でてあるんで、香ばしく焦げ目が付けば良いですからね。両面に塩コショウして、それしかないの。『もう食べてもいいよ』って良い香りがしてきたら火を止めます」

両面にきつね色の焦げ目が付いたところで完成だ。台所に漂うバターとジャガイモの焼ける香り、フライパンの弾ける音が食欲をそそる。

|「ジャガイモは土の中で寝かせると、どうして美味しくなるのかね。ほんとに甘み増すんですよね。ジャガイモにモミ殻を被せて土で覆って、冬に雪に埋まりますよね。それで、ちょうどいい湿度になるんでしょうね」

そうやって冬を越したジャガイモが「イモ団子」に姿を変えて目の前にある。熱々をひと口いただく。バターの香りが鼻をくすぐる。ほっこりとした食感と薄い塩味。「こりゃ美味しいわ」と呟きながら、3つも4つも食べる。どうやら“きたあかり”というジャガイモ自体の甘みを活かした美味しさだ。素朴といえば素朴、純粋といえば純粋である。

 

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