読者からのお便り
地域の未来


 土曜日の夕方になって、ようやく2人に会ってもらうことができた。佳奈さんと莉穂さん姉妹は、チョー忙しい。
 佳奈さんは、月曜日以外は学校が終わったら、そのまま石木ジュニアバレーボールクラブに行って5時から7時まで練習だ。その他に、火曜はピアノ、木曜は習字。土曜日も朝9時から12時半までバレーの練習がある。それに日曜日にも、時々バレーの練習試合があるのだ。
 莉穂さんは、4時に学校が終わると、おばあちゃんが車で学校まで迎えに来てくれて、5分で帰宅。「家に帰ったら、まずは勉強。勉強の後は、ほんのちょっと部屋の片付けして、月曜と土曜は空手に行きます。先に片付けばしよったら、もう勉強する時間のなくなるけんが、先に勉強。空手は6時から8時半までなんで、ご飯は帰ってから食べます。宿題が終わってない日は最悪」。
 小学生になった時に創武館空手道場へ通い始めた莉穂さんは、現在6級。帯の色は白。「5級を受ければ、帯の色はたぶん緑。でも、空手って楽しくないというか、友だちとしゃべるのは楽しいけど」と、空手の練習にはちょっと熱心ではないようだ。「だって、莉穂が自分でやりたいって……」と、姉の佳奈さんが横から茶々を入れる。
 それでは、莉穂さんが今、一番熱中しているのは何かな。
 「3年生が大好きなのはドッチボール。朝から、もう準備して、毎日。勉強が始まる前に、外に行って絶対してます。冬やったら、6年生とか他の学年が使わない限り体育館。一番に来た子が、もうボール持って。ランドセルから宿題を出さずに、すぐ体育館へ行く子とかが出てくる。先生は怒らっさんよ。後でさすって分かっとるけん。8時5分にチャイムが鳴って、そいで、朝の会で『おはようございます』って。ドッチボールが強いのは男の子、21人。女子が13人で一緒にする。ドッチボールは得意と言えば得意、でも、ちょっとボーッってしている時もあるけど。昼休みは、ドッチボールじゃなくて全員遊びばする。遊び係という人たちが居て、その人たちが決めた遊びば、みんなでするんです。クラスの全員で、絶対みんなが参加して」
 佳奈さんと莉穂さんの家の前には、棚田を潤す石木川が流れている。両岸の堤防はコンクリートで固められているが、水は豊かで清らかだ。川面には大きな自然石があちこちに点在し、カヤや菜の花などの野草が茂る。
 「夏休みには、ここで泳ぐんです」と、莉穂さん。
 「じいちゃんかばあちゃんが一緒に行くか、従姉妹のお父さん。夏休みになったら、大阪に居る高1と中1の従姉妹が、だいたい来ます。2人とも女の子。めちゃくちゃ可愛がってくれる。大きくなったなあ、とか言って」
 佳奈さんは、25メートルを13回ぐらいは泳ぐことができる。莉穂さんは100メートルだ。
 「保育園でスイミングに行きよったけん、お姉ちゃんは年長の時に10級を取ったけど、莉穂は、カニさんかイルカさんのどっちかで、級を取る前に小学校へ行くけん止めた。お兄ちゃんもお姉ちゃんも居らんくなって、ひとりになったけんが、年長までは続けられんやった。さみしいんだもん」
 莉穂さんが保育園の頃の心残りを小声でぽつり。佳奈さんがすかさず「クロールも合格せんで、莉穂、止めたもん」と、お姉さん風を吹かせた。
 放課後は、バレーボールや空手の練習でチョー忙しい姉妹だが、学校の勉強はどうなのかな。いつも先に答えるのは、莉穂さんだ。
 「テストで言うと、国語の文章問題が得意」。佳奈さんは「体育が得意。ボールを使ってするやつ」。莉穂さんが「2番目は算数」と言うと、すかさず佳奈さんが「嘘やろお前」。「嘘やないんです。本当なんです」と、莉穂さんが抵抗する。「嫌いなんが理科、理由はちょっと言えないんです。社会科もちょっとね。面白くないもん。でも、社会科見学に行った時、品物はどこから来てるんですかと聞いたりするの。(町役場近くのスーパーマーケットで)店の裏の魚とかを捌く様子とか、普通の人が入られん所ば特別に見せてもらったりしたのは面白かった。その時、マイナス25℃の冷凍庫に閉じ込められた、ちょっとね。寒いかなって入ってみたら、チョー寒くて。店の偉い人が、わざと扉を閉めたの、5秒くらいたったら開けてくれたけど」。
 
 目を輝かせて屈託なく質問に答えてくれる佳奈さんと莉穂さん姉妹。保育園の頃はスイミング。小学生になってからはバレーボールと空手の他に、週1回のピアノと習字。最初、話を聞いた時は、ちょっと忙しすぎるのではと思っていたが、姉妹は苦も無く楽しげにこなしていた。近くに同世代の子どもたちが居ないこともあってか、友だちと交わる機会を作ってあげようとする両親の深い愛情が、真っ直ぐに2人の心に届いているようだ。