読者からのお便り
地域の未来


 夏帆さんがリビングから持って来た本の表紙には、凜としているが優しい表情のしろくまが、真っ正面を向いている。絵本のようだが、「しろくまカフェ」(ヒガアロハ著)というマンガの本だ。「あんまり本とか持ってないから、本屋さんで、この本を見つけて、1巻と2巻を一緒に買うつもりでレジんとこに並んでたら、お母さんが何も言わないで1000円札をくれた。ほんとは自分のお金で買うつもりだったけど」。
 「とにかく動物が出てくる話。動物とか人間のカフェのお客さんが話しているところが面白い」。夏帆さんのお気に入りは、ペンギンさん編。キングペンギンとコウテイペンギンのお母さんが、お互いに自分の方がきれいと言い合っている傍で、「ペンギンの赤ちゃんたちは、ふたりが一緒に並んで仲良くしているから可愛くて、いいなと思った」と指さしたページには、可愛いペンギンの赤ちゃんが大きくほのぼのと描かれいた。
 夏帆さんは、近頃では珍しく学習塾や習い事には通っていない。だから時間がたっぷりある週末や放課後は、自宅のリビングで静かに「しろくまカフェ」を読むのが、最近の楽しみだ。家の周りは畑で自然がいっぱいだけど、自分だけで外で遊ぶことはしない。「同じクラスの七海ちゃんが、うちのお母さんが車で迎えに行ったり自分ちの車で送ってもらったりして、遊びに来た時には2人で外で遊ぶこともあるけど」。
 リビングに居る時のもう一つの楽しみは、セキセイインコのミーくんだ。「うちに来て、もうすぐで3年くらいになるかな。餌とかは、たまーにやったりするけど、ほとんどお母さんが世話している。リビングの中で籠から出して放したりするけど、いつもすぐに帰りたがって自分で籠に戻ることが多いの。たまにあんまり帰りたがらない時は『もういいだろう』って言ったら、自分で籠に戻っていくよ。前は、2羽飼っていたけど、メスのピーちゃんが、今年の6月に死んじゃって。で、(今は)もう、1羽だけ。卵は一個だけ産んで、温めたりしないで端っこにあって、そのまま放っちょいたけど、卵は割れたけど赤ちゃんは出てこなかった。割れた卵はどうしたっけ。ちょっと忘れちゃった。赤ちゃんは生まれてきて欲しかったけど、赤ちゃんを世話したりするのは大変だからという気持ちと、ちょっと残念な気持ちもあった」。
 静かで穏やかな時間を過ごすことが好きな夏帆さんは、ゆっくりと考えながら、家で過ごす時間について話してくれた。中学2年の兄と中学1年の姉が居る3人兄弟の末っ子だ。家族の愛情を一身に受けて、絹布に包むように大切に育てられたことが、夏帆さんの話し方や仕草から伝わってくる。
 夏帆さんが一番大切にしているものは、何かな。「うーん、……」としばらく考えた後で、「やっぱり、命とか、家族とか……」。