読者からのお便り
リトルヘブン余録

 平均標高550メートルの作手地区は夏季低温多湿のため、枯れた湿地植物が腐植土にならず炭化して堆積している。このような湿原を泥炭湿原と言う。その一つである愛知県指定の天然記念物「長ノ山湿原」は、沼地から低層湿原、さらに乾燥して原野になる過程の中間湿原と呼ばれる状態だ。
 資料によると、堆積する泥炭の中には、埋もれた木や花粉、火山灰、珪藻類などが含まれ、湿原の成立過程と過去の気候の変遷を知る上で貴重な場所なのだ。例えば、地表から約2.7メートル下の泥炭には、姶良丹沢火山灰と呼ばれる2万9千年から2万6千年前に噴火した鹿児島県の桜島一帯のカルデラから飛んできた火山灰が堆積しているとある。この他にも、3つの火山灰層があり、およそ3万年間の地球上の変化を知ることができるのだ。
 私たちが見ることができる地表には、湿原ならではの沢山の植物が生育し、珍しい昆虫類や両生類、魚類、鳥類が生息している。
 私が訪ねた7月だけでも、植物ならばモウセンゴケ、ヒツジグサ、ジュンサイ、ノギラン、ノハナショウブ、オニスゲ、サワラン、トキソウなどを見ることができ、昆虫類ならばハッチョウトンボ、モートンイトトンボ、グンバイトンボ、ヒメヒカゲなどを見ることができ、両生類ならばモリアオガエル、イモリを見ることができたはずなのだが、私の知識が貧困なため、この中のわずかしか確認することはできなかった。
「長ノ山湿原」を訪ねるには、作手地区を南北に走る国道301号線が西に折れる田原の信号を、逆向きの東へ農道を入り標識に沿って進むと、右側に湿原専用の駐車場がある。そこからは徒歩で、わずか2分だ。
 ロープで仕切られた内側は立ち入り禁止になっている。長靴を履いてロープに沿って歩くと、湿原ならではの植物や昆虫類を観察できるだろう。

写真・文 芥川 仁

※参考資料:旧作手村観光協会と旧作手村教育委員会が製作したパンフレット
          「愛知県高原国定公園 長ノ山湿原」