読者からのお便り
地域の未来


 作手小学校北校舎を午後5時に出発したスクールバスは、きっかり10分後に菅沼集落の入り口に到着した。中菅沼集落から通うのは、5年生の加藤あすかさんと3年生の齋藤樹くんの2人だ。あすかさんのおばあさんと樹くんのお母さんが、県道までお出迎え。あすかさんは「家でシャワーを浴びて来ます」と、おばあさんにランドセルを預けたまま走って帰った。
 8月になると、1日の百万遍(念仏)と4日の水棲生物調査という夏休みのお楽しみ行事が2人を待っている。
「水棲生物調査は、子どもを楽しませてやろうとしてるから子どもが主役だけど、百万遍は儀式というか、今年も上手くいきますようにという訳だから、神様(仏様)が主役。ナムアミダブツって言いながら、全部の家を次々回るの。10人くらいが円になって数珠を回して、1回言ったら木の玉を1つずつずらすの。横が大人のひとで、数珠の玉と玉が離れている時には、指を挟むようにわざとカシャーンと玉をずらすのをやるんですけど。時間がいっぱいあるから、楽しいことを考えています。割れた数珠の玉がかっこいいと言うか、財布とかに入れておくと1年間健康に過ごせるっていうのがあるから、わざと割ろうと思って玉をカリカリやったりするけど、……ねぇ」
 あすかさんが、樹くんに相づちを求めるように視線を投げかけた。
「百万遍って覚えてないくらい前からやってて、僕は3回行った。今年はちゃんと健康で過ごせるようにお願いするの。去年はおたふくになってしまったんで。お願いって言えば、天の川のことちょっと忘れてました。七夕の日は、商工会が名古屋ドームにバスで連れて行ってくれました。スポーツ少年団の作手ジュニアーズで野球やってて、新人戦ではレフトを守ったの。一塁に1回は出たことあるよ。プロ野球選手になるのが夢。中日に入ってホームランを打てるようになりたいです」
 普段の生活の中で、あすかさんの楽しみってなんだろう。
「宿題やったら、もう真っ暗になってて、遊ぼうと思っても友だちがいない。いま楽しみなのは、紅茶をギューと押して作るガラスの器で、アイスレモンティを作って飲むこと。カップだと小っちゃすぎて、すぐ飲み終わっちゃうので、アイスなもんで、グラスの大きいのに氷はもうだーだに入れて、ポッカレモンを入れるともうレモンティになるので、それを飲みながらテレビを見てます」
暮らしの端々に大人のスタイルが窺える10歳のあすかさん。彼女の願いは、ディズニーランドへ行くことと、運動会で披露するマーチングバンドでトランペットが上手く吹けることだ。
「パート1を担当していて、息継ぎは大丈夫なんですけど、リズムが早くて」
 今年4月から作手地区にあった菅守(すがもり)、開成、巴、協和の4小学校が、作手小学校として1校に統合された。あすかさんと樹くんは北校舎に通っている。5年生は8人のクラス、3年生は9人のクラスだ。新しい学校で1学期を過ごした樹くんに感想を聞いた。
 「学校が一緒になったので、高里(たかさと)近くの保育園の時に友だちだったみんなに、また会えたので嬉しかった。みんなも久しぶりだね、また会えたねって言って喜んでくれたの」
 別れ際、長ノ山湿原近くの田んぼで捕ってきた大きなタニシを、水槽で飼っているというので見せてもらった。
「じいちゃんとお父さんが、餌やってくれている」と樹くん。休みの日にはお父さんと一緒に、奥の川へアマゴやアブラハヤを釣りに行くそうだ。「アブラハヤはムギクソとも言うし、アマゴはアメとも言うよ。アメはお父さんが使うけど」。こんなひと言に、家族に愛されながら自然と親しんでいる樹くんの暮らしぶりが伝わる。