読者からのお便り
地域の未来

 

 内之尾集落の一番上の家で暮らす坂元家5人姉弟(きょうだい)には、全員の名前に「心」の字が付いている。17世帯の内之尾集落で、子どもが居るのは坂元家だけ。高齢化率が55%を超えている内之尾集落では、文字通り「希望の星」と言って良いだろう。
 末っ子の仁心(じん)くん(2)は、ニコニコしていていつも楽しそうにしている。長男の剣心(けんしん)くん(4)は、ちょっと甘えん坊で、すぐお父さんに抱っこされたがる。
 小学生の3姉妹は、風呂掃除と米研ぎ、茶碗洗いのお手伝いを交代でしている。なかなか親孝行な女の子たちだ。風呂掃除を率先してやるのは、長女の優心(こころ)さん(12)と三女の美心(みいこ)さん(9)。米研ぎを好んでするのは、次女の真心(まこ)さん(10)だ。「米研ぎをやってると、何か楽しい。月金土と日曜日は、だいたいしています」と、仕方なくやらされるお手伝いとはちょっと様子が違う。いつか米研ぎをした時に、水が多くて少しべちゃべちゃのご飯になったけど、「みんなで、べちゃべちゃの方が美味しい」と言って食べてくれた。誰かの失敗を責めたりしないのだ。子どもたち全員の名前に「心」の字を付けた両親の願いは、確かに通じているようだ。
 保育園の年中組だけど、剣心くんも、お手伝いは進んでしたいと思っている。ニンジンの皮むきが楽しいので「ニンジンの皮むきさせて」とお母さんに頼むけど、「今日はしないでいいよ」と言われることがある。その時は、仕方ないので仁心くんと遊ぶことになる。確かに、ニンジンの皮むきのお手伝いは、毎日はないのだろう。
 家で飼っているペットの世話も、それぞれの役割が決まっている。犬のブブは優心さん、猫のチビとキッキとモモとツキの4匹を世話するのは美心さん。ウサギのピョンキチの世話は真心さんと剣心くんだ。ペットの世話は、餌やりと水やりとトイレの藁(わら)と干し草の交換だ。猫4匹の世話をしている美心さんは、餌は毎朝一回やるけど、水やりは1ヶ月に一回にしている。それを聞いたみんなから「かわいそう」と言われて、美心さんは「だってさ、水たまりの水飲んでいるから大丈夫」。
 近所に子どもが居ないので、何をするにも全員が一緒の坂元家5人姉弟なのだ。
 内之尾集落は大馬越小学校の校区だが、歩いて通えるほど近くはない。そこで、小学生の3人は、校区を越えてお父さんとお母さんの勤め先に近い入来小学校に通っている。朝はいつも、お父さんかお母さんが、通勤の時間に合わせて学校まで送ってくれて、月水金曜日の帰りは、市が運営している巡回タクシーに乗る。その他の曜日は、勤め帰りにお父さんかお母さんが迎えに来てくれることになっているのだけど、仕事の都合で迎えが間に合わないこともあるようだ。そんな時がひと月に3、4回はあるけど、3人で一緒にタクシーに乗って帰るのだ。

 日曜日の午後、家の庭先に座り込んで5人姉弟の話を聞いた。活き活きと話す子どもたちの言葉の端々に、両親を含め、家族が一丸となって暮らしている様子が浮かび上がってくる。「不便」と言ってしまえばそれまでだが、何とかして内之尾集落で暮らしていこうとする両親の意思を、子どもたちはしっかり受け止めているようだ。仁心くんのニコニコ顔が、仲良し5人姉弟のそんな気持ちを端的に表していた。