読者からのお便り
地域の未来

 

 給食をひときわ美味しそうに食べる男の子がいる。食べっぷりが豪快だ。今日の献立は、キャベツメンチと五目キンピラに麦ご飯となめこ汁。牛乳の他にデザートがオレンジひと切れ。4年生がリクエストした倉木麻衣の「ラブデイ アフター ツゥモロウ」が流れる多目的室で、8人の全校生徒と先生と職員の全員が一斉に給食を食べる。生徒より人数の多い先生の間に挟まって、子どもたちがお行儀良く給食を食べている。豪快に給食を食べていたのは、4年生の藤田尚斗くん。どういう訳か、彼のところにだけオレンジが3切れ集まっていた。先生が、自分の分を彼に廻しているのだ。「どうしてだか分からん。たぶん、元気が良いってこと」と、尚斗くんは食べてしまってから、首をひねる。「給食は、全部美味しかった。野菜は好きだよ。キュウリを生で食べるのが好き」。
 尚斗くんは、土、日曜日や放課後には、自転車でグルグル近所を走る。2年生の中根海(かい)くんの家に行って、3Dゲームのドラゴンボールで対戦することも週4回くらいはある。意外と、身近な山や川では遊ばないのだ。
 給食の時、放送係をしていた5年生の遠藤美樹さんは、早川北小学校でただ一人の女の子。「今日の給食では、キャベツのメンチカツが苦手だった。サラダだったら良かったけど。お母さんを手伝って料理するのは好きです。どちらかと言えば和風が良いけど、グラタンも好きかな。男の子と遊ぶのにもう慣れたから、女子一人でもさみしくはありません」と、美樹さんは自分の意見をはっきりと伝える。職員室で美樹さんの話を聞いていると、教室の方から「もういいかい」と、大きな声が聞こえてきた。昼休みは、ほとんど毎日、かくれんぼをして遊ぶのだそうだ。木訥な時間が、早川北小学校にはあった。
 早川町では、町立小中学校の完全無償制度を2012年度から始めた。授業料や給食費、教材費はもちろん、修学旅行の費用も町が負担する。「わらべの里遊学」と呼ぶ山村留学を積極的に受け入れる制度を作り、早川町の自然と地域の力を活かした少人数教育に力を注ぐことで、地域の未来を育てようとしている。