読者からのお便り
イワシの柔らかさと 唐辛子の辛さが絶妙
イワシの「ぬか炊き」。右にナスの「ぬか炊き」が添えてある



[一口メモ] 小倉城主の細川忠利が肥後藩主となった後を受けて、寛永9(1632)年から明治4(1871)年の廃藩置県まで、約240年もの間、豊前6郡を支配していたのは譜代大名の小笠原氏だった。赤村の人びとは、現在も親しみを込めて「小笠原の殿様」と呼んでいる。
 調理台の上に銀色に輝くイワシが14匹。「これで7人分」と、蓑添美智代さん(68)。直径30センチほどの鍋に、一升瓶から醤油をドボドボ、続いてミリンをドボッと入れた。「ミリンは醤油より、ちょっと少なめね」と、自らに言い聞かせるように説明して、次に「煮物は白糖より三温糖の方がいいね」と、大さじ2杯を加えた。  「汁を沸騰させてから魚を入れます」と、鍋に蓋をして強火にかける。3分もすると、醤油の香りが台所に広がって鍋の縁が泡立ってきた。そこで、蓑添さんは、鍋の底にイワシを隙間のないように並べた。「汁は、ひたひたちゅうくらいやね。ぬか炊きは、熱いごはんに乗せて食べたら美味しいんよ」。  魚を入れてからは中火だ。「魚に味が付いてから、ぬかを入れるんですよ。あまり早うにぬかを入れると、ぬかが水分を取ってしまうからね」。イワシに煮汁が馴染んできた頃を見計らって、1合ほどのぬかを鍋に入れた。ぬかは、毎日漬け物を漬けるぬか床から取ってきたものだ。ぬかを入れたら、鍋を傾けてお玉で煮汁をすくい、汁がまんべんなく鍋全体に行き渡るようにする。「ぬか床の味で、ぬか炊きの味が決まりますけん。やっぱり、ぬか床の手入れがいいところは美味しいです。毎日、ぬか床を底から掻き回して空気を入れてやらないと」。ぬかを入れてからは弱火で、付きっきりで煮汁をぬかに絡ませていく。  煮汁が煮詰まりかかると、前もって煮ておいたナスも鍋の端に入れて、最後の仕上げだ。ごく弱火で頃合いを見極め、煮汁がなくなったら出来上がり。わずか10分余りの料理である。  「匂いがするからね。外から来た人もすぐ分かりますよ。あ、今日はぬか炊きしよるちゅうて」「ぬか床に山椒の実を沢山入れとるからね。ガリガリいうから、除けててもいいですよ」と、蓑添さんが気遣ってくれる。  言われた通り、最初に山椒の実がガリッと歯に当たって砕けた。イワシの身は柔らかく、ぬか床でたっぷり効かせた唐辛子が、ピリッと刺激する。同居している美智代さんの実母・宮崎ミツ子さん(95)が「うん、山椒も胡椒(唐辛子)も効いとる」と満足そうだ。ご飯が進み、ついお代わりをしてしまった。食欲の秋には、ぬか炊きにご用心。
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